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札幌高等裁判所 昭和63年(ネ)346号 判決 1990年1月23日

主文

一  原判決中控訴人らに関する部分を取消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴人ら

主文同旨

二  被控訴人

1  本件各控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  主張及び証拠関係

原判決事実摘示中控訴人らに関する部分記載のとおりであるからこれを引用する。ただし、原判決二枚目裏六行目の「二九日」を「二七日(同月二九日登記)」に改め、同三枚目表三行目の「を」を削除し、同四枚目裏一三行目の「本件」を「原審訴訟」に改める。

理由

一  請求原因1、2の事実に関する認定判断は、原判決の理由説示一、二(原判決五枚目表二行目から同六枚目表末行目まで)記載のとおりであるからこれを引用する。ただし、原判決五枚目裏一行目の「二九日」を「二七日」に改める。

二  そこで控訴人らの抗弁1(法定地上権の成否)について判断する。

(一)  本件土地及び建物の所有関係(いずれも共有であること)についての認定判断は、原判決理由三1(一)、(二)(原判決六枚目裏末行から同七枚目表五行目までは除く)記載のとおりであるから、これを引用する。

(二)  しかしながら、原審における控訴人ら各本人尋問の結果によれば、控訴人らの父亡冨太郎は、控訴人三雄が身体障害者であるため将来の生活を案じこれを保障する趣旨で、その所有であった本件土地上に自己の資金をもって本件建物を建築しいずれも実質的には控訴人三雄に贈与する意思であったが、土地については同人に贈与税を支払う資力がないので同人を含む三名の共有とし、建物については控訴人三雄が商売に失敗しその債権者から差押えをうけるおそれがあったので自己の名義で登記したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  ところで、土地の共有者の一人が他の共有者の同意の下にその地上に共有建物を所有する場合において、同人の共有持分のみならず他の共有者の持分全部に抵当権が設定せられ同時に競売せられた場合において、前記(二)のような特段の事情があるときは、土地共有者全員について民法三八八条により地上権を設定したものとみなすべき事由が発生したものというべきであり、これが、他の共有者の意思に反するというものではない。(執行裁判所(札幌地方裁判所)の物件明細書(甲第三号証)の「売却により設定されたものとみなされる地上権の概要」欄には「なし」と記載され、法定地上権の成立を否定している。その理由とするところは、恐らく、共有者は、各自共有物について所有権と性質を同じくする独立の持分を有しているのであるから、土地共有者中一部の者だけがその土地に地上権を設定することはできず、その理は、法定地上権についても同様である(最高裁昭和二九年一二月二三日判決)というにあるものと推測される。)したがって、その抵当権に基づき競売が実行され第三者がこれを買い受けたときは、建物の共有者の一人がその敷地を単独で所有する場合(最高裁昭和四六年一二月二一日判決)と同じく、右土地につき建物共有者全員のため法定地上権が成立するものと解すべきである。

(四)  してみれば、控訴人らの法定地上権成立の抗弁は理由がある。

三  よって被控訴人の本訴請求は、その余の判断をなすまでもなく失当であるから、これを認容した原判決を取消し、これを棄却することとし、第一、二審の訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

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